不妊とは
「不妊」とは、妊娠を望んでいる健康な男女が避妊せずに性交を行っているのにも関わらず、一定期間妊娠していない状態です。
日本産科婦人科学会によりますと「一定期間」とは「1年」だと定められています。
具体的に言いますと、「女性に排卵が無い」「子宮内膜症を合併している」「骨盤腹膜炎などを発症したことがある」などがあると、妊娠しにくいと言われています。
このような場合は、上記の定義に当てはまっていなくても、「不妊かも」と考えて検査や治療を受けるようにしましょう。
また、男女関係なく人間は年齢を重ねるとともに、妊娠しづらくなってしまいます。治療を先延ばしすると、ますます妊娠できなくなる可能性が高まるため、妊娠を希望される方は今すぐにでも婦人科へ受診することをお勧めします。
不妊のカップルは大体「10組に1組」だと報告されています。しかし近年、妊娠を考え始める年齢が年々上昇している傾向もあるため、この割合はもっと高いのではないかとも指摘されています。
全くの健康体で病院とは縁の無かったカップルにとって、「不妊なのでは」と不安でいっぱいになるのは、とても辛いことかと思います。
ご自身の健康状態を振り返り、人生の計画を立てるためにも、まずは産婦人科医へご相談ください。
原因
不妊の原因は、男性側・女性側、またはその両者にあるとされています。しかし中には、原因がはっきりとされていない不妊もあります。
女性側の原因
排卵因子
規則的に生理が来ている女性の場合、生理が終わってから2週間ぐらい経過した後に「排卵」が起こります。女性ホルモンの分泌は排卵の影響を受けます。その影響により、子宮内膜も妊娠に向けて準備を行っていきます。妊娠しなかった場合、子宮内膜は剥がれ落ち、経血として排出されます。
しかし、重度の月経不順がある女性の場合、生理のような出血が見られても、排卵を伴わないケースがあります。排卵が無いと妊娠しません。
この場合、甲状腺など女性ホルモンを分泌する器官に影響を及ぼす疾患や、極度の肥満、体重減少、男性ホルモンの数値が上昇するホルモンバランスの異常(多嚢胞性卵巣症候群)などが隠れている可能性が考えられます。
これらを発症している場合、まずはその原因を改善させたり、排卵を起こす治療を受けたりする必要があります。
また、全く月経がない方の中には、様々なホルモン分泌の異常や、早発卵巣不全(早発閉経)を起こしている方も存在しています。排卵しているか否かは、基礎体温を測ることで調べられます。
卵管因子
卵管とは、精子が卵子と出会い、受精した卵(胚)が再び子宮へ戻るために必要な道です。そのため卵管が炎症などによって閉塞すると、妊娠しなくなってしまいます。
卵管炎や骨盤腹膜炎を引き起こすクラミジア感染症を発症したことのある方のほとんどは、無症状のうちに卵管が閉塞を起こしている可能性があります。
また、生理痛が重い女性の場合、子宮内膜症が隠れている可能性も考えられますが、この子宮内膜症の病変によって卵管周囲の癒着が生じることで、卵管の閉塞を起こしているケースもあります。
頸管因子
子宮頸管(しきゅうけいかん)は、子宮の出口を閉めて守っている筒状の部分です。排卵が近づくと子宮頸管は粘液を出し、精子が通りやすい状態へ変化していきます。
しかし、この粘液の分泌量が少ない、または精子の通過に適していない状態でいると、精子が子宮の中へ入りにくいため、妊娠が起こりづらくなります。
子宮因子
子宮筋腫や子宮の先天的異常などにより、子宮内膜の血流が滞ったり手術・炎症による癒着などが生じたりすると、子宮の中へ到達した胚がくっつかなくなり、育たなくなります。そうなると妊娠が起こりにくくなります。
免疫因子
「免疫」とは、元から人間に備わっているもので、細菌・ウイルスなどと闘って自身を守る仕組みのことです。外敵の侵入を簡単に許さないための、重要な仕組みです。
しかし何らかの理由で「抗体」という免疫の力が働いてしまい、精子を攻撃してしまうことがあります。精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)を持っている女性の場合、子宮頸管や卵管の中で抗精子抗体が作られると、精子の運動性が失われてしまいます。運動性を失われた精子は、卵子の元へ行くことが出来なくなるため、妊娠が起こらなくなります。
男性側の原因
男性側に原因がある場合と、女性側に原因がある割合は、ほぼ50:50です。
造精機能障害
精子の数が少なかったり精液の中に精子がいなかったり、精子の運動性などに問題があったりすると、妊娠が起こりにくくなります。
また、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)があると精巣内の温度が高くなるため、精子の数や運動性が下がってしまいます。特に原因が無いにも関わらず、精子が作られないといったケースもあります。
精路通過障害
作られた精子がペニスの先端まで通過するための道が途中で塞がっていると、射精自体は出来ても精子は排出されません。過去に精巣上体炎などの炎症を起こしたことによって、精管が詰まっていることがあります。
性機能障害
勃起障害(ED)や膣内射精障害など、性行為で射精することが出来ない状態を指します。
ストレスや妊娠に対する精神的プレッシャーなどが原因で発症すると言われていますが、糖尿病などの疾患で発症することもあります。
加齢による影響
男女ともに年齢を重ねるごとに、妊娠するために必要な力(妊孕性:にんようせい)が低下すると言われています。女性は30歳を過ぎると自然妊娠する確率は減少し、35歳を過ぎると一気に下がるようになります。
加齢によって子宮内膜症などの合併症を引き起こすと、卵子の質が低下し、妊孕性も下がってしまうと指摘されています。 男性は女性よりも遅めですが、35歳頃を境に、少しずつ精子の質が下がっていきます。
検査
女性が受ける検査
内診・経膣超音波検査
子宮内膜症や子宮筋腫、クラミジア感染症などの疾患の有無を確かめていきます。
子宮内膜症や子宮筋腫が疑われる場合は必要に応じて他医療機関と連携しMRI検査などを行います。
子宮卵管通水検査
卵管が詰まっているか、子宮内の形に異常あるか否かを調べます。
ホルモンの検査
採血を通して、女性ホルモンの分泌や、分泌に関わる甲状腺機能などを調べていきます。妊娠が成立する時期(黄体期)に女性ホルモンがきちんと分泌されているかを調べる必要もあるため、生理周期に合わせて、検査を2回受けて頂いております。
性交後試験
(Huhnerテスト、またはPCT)
排卵直前という最も妊娠しやすいタイ不妊症ングに性交を行った翌日に、女性の子宮頸管粘液を採り、その中に運動精子があるかどうかを調べていく検査です。
直進運動精子が認められなかった場合は、免疫因子(抗精子抗体)が無いかを確認します。
男性側が受ける検査
ご自宅で採取していただいた精液から、精子の数や運動率などを調べていきます。専用検査機器(精子特性分析機SQA-V)を用いています。
異常が発見された場合は、精索静脈瘤などの疾患の有無を調べるため、泌尿器科で検査を受けて頂きます。
治療
原因が特定できた場合、その原因に合わせて治療を行っていきます。
原因が分からない場合
排卵と受精をサポートする治療を受けて頂きます。一般的には、タイミング法から排卵誘発法を行い、その次に人工授精、そこから体外受精という流れで行われます。 このように状態に合わせて、治療法を変えていきます。
当院では、人工授精までの一般不妊治療に対応しています。
タイミング法
最も妊娠しやすいと言われている時期(排卵の2日前頃)に性交を行う方法です。
卵胞の大きさや尿中のホルモンを測ってから、排卵日を予測していきます。排卵日に合わせての通院が必須です。
排卵誘発法
内服薬や注射を使って、排卵を促進させる方法です。排卵障害がある時に行う治療法ですが、排卵があると分かっている状態でも、人工授精の妊娠率を高めるために行うこともあります。